【書評】”書くこと”への賛歌『魂の文章術』★5

【祝! 2019年復刊】
 一時期絶版でプレミアが付いていましたが、復刊しましたー!!
 Kindle版もあります。
 表紙は変わっていますが中身はほぼそのままです。

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 『書くこと』について私に偉大な影響を与えるこの本について、ずっと紹介したいしたいと思いながら中々手が出せなかったのは、この本の素晴らしさを言い尽くす自信がこれっぽっちもなかったから。

 でも言葉を抜き出し、ほかの人に紹介するたびに、『この本のことが気になる』といってくれる人がとてもとても多いので、やっと真正面から、お相撲さんのようにがっぷり組んでその魅力を伝える努力をしてみようか、と思い立った次第です。
 全部は無理でも、せめてその数多ある魅力のうちひとつくらいは、なんとか。

 私には、『書くこと』について特に大切にしている本が2冊あります。一冊は、大橋悦夫さんの『「手帳ブログ」のススメ』。この本は、当時書くことについて、泥くさくあれやこれやと試行錯誤していた私に、書く作法の枠組みをはじめて与えてくれた一冊でした。文法についてではなく、ブログに対して相対するモチベーション、なぜ書くか、ブログにどんなフレームワークを持ち込めるか、を試行錯誤した結果が、可愛らしい4コマ漫画と一緒に紹介されています。ブログ本の中で、当時一番衝撃を受けたものでした。未だに、過去のテキストを見ると、4行日記をまねしてみたり、試行錯誤の跡が確認できるのがほほえましいな私、と、ちょっとにやっとしちゃう。もちろんその試行錯誤の流れの先にいるのが、今の私です。
「手帳ブログ」のススメ

 そして、もう一冊が本書、『魂の文章術』。初めて読んだときの衝撃は今も薄れず、私にとって、書くことはこの本に始まりこの本に終わる、というほど、書くことの第一の指針になっている本です。

 朝、私はカフェなりファミレスのモーニングを頼み、居心地のいい席を確保してから、PCとこの本を取り出します。そして、PCを立ち上げている間、適当なページをぱっと開き、数ページきりのいいところまで読んでから、ヨシ、文章を書こう、とPCに向かいます。

 こういうわけですから、今も手元にあるこの本から表紙はすでになく、本の角もすっかり磨り減って、表紙の赤い色が落ちてしまいました。すでに古本屋で引き取ってすらもらえない体ですが、私がものに対して雑な扱いをするのは、手放す気が無いゆえの愛。愛なんですよー!!

 この本にはもう何度も目を通しているのですが、どれだけ読んでもこの本の目新しさが消えることはありません。

 『魂の文章術』は、作家、そして詩人でもあったナタリーが一般の人に書くことを説明する本なので、たとえば雑誌のコラムみたいな、字数制限があって、その中で美しい文章、正しい文法を体現するにはどうするか、みたいなことはまるで書かれていません。

 その代わりに、まず、書くことがいかにすばらしいかを教えてくれます。そして、書くことに対する恐れ─ぶきっちょな文章になるのでは、あるいは、ほかの人から眉をひそめられそうな思いを文章として形にするのは怖い、というような読み手の心に寄り添って「それでいいんだよ」と、笑顔で旗を振ってくれます。

 たとえば、こんなふうに。

 『私はいつも生徒に、特に世の中のことがわかりはじめる六年生に向かって、こう言う。「”一たす一は二”と決めつける理屈っぽい頭のスイッチを切りなさい。一たす一が四十八になったり、メルセデス・ベンツになったり、アップルパイや青い馬になる可能性に向けて、心を大きく開きなさい。自分のことを書くときは、”僕は六年生です。男です。オトワンナに住んでいます。お母さんとお父さんがいます”というふうではいけません。自分がほんとうは誰なのかを先生に教えてほしい。”私は窓に降りた霜だ。若いオオカミの遠吠えだ。刃物のように薄い草の葉だ”というように」。』(P120)

 この一節を読むだけでも、わが身を振り返って「保守的になったなあ」と自省してしまいます。

 社会に出て、情緒より正確な文書内容に重きを置くビジネス文書にどっぷりと身を沈めたあとで、世の常識に背く(かもしれない)文章を書くことに、すっかり怯えた自分に気づくのです。

 自分の考えを、特に一般常識とか、友人に迎合しない考えを表に出すのをためらう気持ち、とでも申しましょうか。

 自分の頭で考えることが重視され、角の立たない意見など無価値、という、大学生の頃文化から、ずいぶん遠くまで来たなあと思います。でも今の私は過去の私から続いてるわけで、書けば取り戻せそうな感覚。

 そういう、最近なりを潜めた文化だとか、自己表現だとかを、まるごと肯定してイエスと言ってくれるパワーがこの本にはあります。

 もともと文章を書くことは嫌いじゃないけれど、最近書くことに対するモチベーションがどうもあがらないとか、書くことに対する得体の知れない不安感があるというひとは、ぜひ一度この本を読んでみてください。あなたなりの処方箋が、この本の中にあるかも。