【書評】主人公の友達でいられる自信がない。:ブルーカラー・ブルース★5

 辞めるって、逃げなのか?

ブルーカラー・ブルース (Next Comics)

要約: 新卒で就いた仕事は、ブルーカラーで徹夜上等、周りから罵声を浴びこづかれる、肉体的にも精神的にもキツい職場だった。

 ほら、要約したら陳腐になった。これだから文章の表現ってのは御しがたい。文章を書いていると時々、気むずかしいご老体を相手にしているような気分になります。
 知り合いに気むずかしいご老体なんていないけど。

 ・・・・というのは脇に置いておいて。本の中身のご紹介です。漫画です。

 イラストがすこぶるきれいな訳じゃない。表現がとことん作り込まれているわけでもない。
 それでも、圧倒されて引き込まれてしまうのは、そこに著者自身の体験が根付いているからだと思う。

 もしこの内容を、著者がほかの誰かに話して書いてもらったとしても、傷口に水を流され泥は拭われて、小綺麗な体で人に事実を伝えるのが精一杯の、伸びやかさを失った表現になっていたんじゃないかなあ。

 もちろん伸びやかさというのは良い意味でなくて、本来伸びなくていい身体や感情がひどくいびつに引き延ばされて、その痛々しいたるみや破れ方さえ精緻に描く、ということだ。その自由は、他人任せの表現ではおそらく得られなかったろうと思う。この表現の伸びやかさ、迫ってくるリアリティが、この漫画の何よりの魅力と思えてならない。

 この漫画は、おのおのが考えている「労働観」に挑んでくる。特に、ホワイトカラーでずっとやってきた私にはずいぶんショックというか、とっさには理解できないような描写も多分に含まれてきた。

 一個の人間の、何のフィルターも通さずに、赤裸々な悩みが垣間見えるとき、おそらく相手にその気がなくても、その生き様は受け取る相手に問うている。ブルーからホワイトへ、手痛い一発。

 「お前が当たり前と思ってる働き方って、本当にお前が思ってる通りなのか?」

 ここまで迫られれば、いくら鈍い私でも気づく。

 『辞めるって、逃げなのか?』

 普段の私なら、こんな質問をされても、無神経に「ンなわけねーだろ」と言うきりだ。本人がどれだけ悩んでいたとて、そして私がどれだけまわりくどく語ったとしても、最終的にはそういう回答にしか結びつかない。その回答は、私がもう何遍も何遍も検討を繰り返して手に入れたものだからだ。「離職はご縁だ」「離職して初めて手に入るものがある」「特に、忙しい職場から離職するとき、それによって心身の健康が劇的に改善するなら、それだけで離職する価値がある」などなど。

 いつでもそう思っている。今でもそう思っている。

 しかしこの漫画は、そんな私の口を黙らせる。

 「効率」とか、「常識的に考えて」とか、そういうそれこそ『逃げ口上』をふさぎにかかるものだから、私はなにも言えずに口ごもる。

 『辞めるのが逃げ?そんなことあるか。だけどさ、だけどさ・・・実際に、”私が当たり前に思っていること”で悩んでいる人が目の前にいて、私はその悩みをどう解せばいい?なんと言って彼の酒に付き合えばいい』

 主人公の友達になろうとした瞬間、もうなんかだめだった。ああ、自分だったら良い友達でいられる自信がない、どこかで見限ってしまいそうだと。

 それでもきっと彼からすっかり離れることは出来ないと思う。なんていうんだろう・・・度を超えて、こう、危なっかしすぎて。

 そう思うと、彼の友人たちはよくやっていたんだなと、読み返して思っていました。

 そしてこのミクロから、一気に引いてマクロの視点になったとき、さらにもうなんか、いっぱいいっぱいになってしまって。読み終わった後もだもだしていました。そんな漫画です。

 ・・・あ、とりあえずハッピーエンドですよ。この本